TOP > 受賞エピソード 富山湾(富山県)入賞「またこられ まっとっちゃ」
「また、今年も会いに来たよー。みんな、元気にしとるけ~」
ほたるいかが光る海面の向こう側に亡くなった祖母がやわらかに微笑みながら語りかけてくれているようです。
ほたるいかの行動は、「月」の満ち欠けに大きく影響を受けます。毎年3月になるとカレンダーを確認し、「新月」の夜中、二時から三時ぐらいになると、私は富山湾に車を走らせ、海辺でなつかしい思い出にひたることになります。ほたるいかに「会える!」「一夜干しにしてすこし炙って・・」「沖漬けにして肴に・・」とそわそわ・・・。
高度成長期、忙しい共働きの母のかわりに、夕食はいつも祖母が支度をしてくれました。
季の旬のものでつくる春先の夕餉には、ほたるいかの酢味噌和えや若筍の味噌汁が並びました。子供の私にはその贅沢さがわかりませんでしたが、今となっては、とてもありがたい時間をすごしていたのだなあと思います。
「わたし、今年、おばあちゃんになるよ・・・」
わたしの孫にもまた、わたしと同じようにあたたかな気持ちを残してやりたい、そして次の世代にこの美しい富山湾をいつまでも、いつまでも残していきたい。
「ばあちゃん!またわたしに会いにきてね。まっとっちゃ。」
ペンネーム:お―ちゃん / 富山県