2011年3月10日。私は７歳と５歳の孫を連れて、美しい松島湾を見に出掛けた。
大宮駅から東北新幹線に乗り、松島に到着。湾の絶景を孫たちと満喫しながら、ふと周りを見渡した。「もしここで津波警報が鳴ったら、どこに逃げるか」と。これは四国の海辺で育った私のクセだ。そんな想像をする私を、松島は笑っているかもな、と意識を目の前の景色に戻した。
駅近くのお店では親切な店員さんと出会い、孫は「きれいなところだから、今度は泊まりがけで来るね」と約束した。
情緒豊かな仙石線、レトロな松島海岸駅。帰り道は列車の風情も楽しんだ。夕焼けを照らす美しい湾が、車窓から私たちを見送ってくれた。

翌日午後、突然の大きな揺れ。東日本大震災。被害を知った私と孫は信じられない思いで昨日の出来事を思い返し、松島の親切な人々と、美しい自然を案じて涙した。それ以来、孫は松島のことを口にしなくなった。
あれから10年となる2021年。大きくなった孫と一緒に、もう一度あの美しい景色に、やさしい人々に、会いに行きたいと思っている。